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第6回 在庫マネジメントがROAを高める

2015年5月19日
取締役 物流技術担当 博士(工学)早川典雄

加工食品製造業A社の国内3ヶ所の工場で生産された商品は、食品卸を経由して、主に全国のスーパーマーケットや外食店に販売されています。食品業界は、10年ほど前に成熟期に移行しました。その当時、A社の売上は順調に伸びていました。

しかし、実はその頃から原材料の高騰などにより、利益を出しにくい事業構造に変わりはじめていました。

今回は、このような状況にあったA社が、弊社と共に在庫マネジメントに取り組み、在庫の適正化を実現した事例の一端を紹介します。

在庫適正化における3つの問題点

A社はすでに、高い在庫精度を実現できていましたが、物流センターや工場における在庫量については、適正とまでは言えない状況でした。物流センターは、工場に補充発注を行い、工場はそれに連動した生産を行っていましたが、この一連のプロセスには、大きく3つの問題がありました。

発注業務の属人化

物流センターから工場への補充発注は、特定の担当者が持つ長年の経験に基づいて行っていました。A社では、15年を超える発注業務経験のあるベテランもおり、ベテランによる業務は「間違いない」と見られていました。この「間違いない」が、実は、在庫増加の一番の要因であるとの仮説を立てました。

コミュニケーションの不備

営業部門と物流部門の意思疎通がうまくいっていませんでした。営業は、得意先との商談において、商品の棚割が決まると、販売見込み情報を物流部門に電話やメールで伝達します。しかし、販売見込み情報を正確に伝える営業マンばかりではないため、一旦、物流センターでその情報が精査されます。また、物流部門には、商談が成立した情報は連絡がありますが、商談が成立しなかった情報は、ほとんど連絡がない状況にありました。これらは、物流センターが予測する需要に誤りを生み、在庫を増加させる要因となっていました。

業務連携の不整合

物流センターと工場の業務連携がうまくいっていませんでした。物流センターは、工場が自らの発注によって生産を計画していると思っていました。しかし、工場では、それでは納期に間に合わない場合が数多く生じ、物流センターからの発注を待つことなく、見込み生産をする必要がありました。このため、工場は自ら需要を予測し、生産していました。

在庫適正化における3つの問題点

物流センターからの発注に対するやや余裕を持たせた生産計画は、在庫数を増やす要因となっていました。A社の在庫数は、ブルウィップ現象を生み出すこれら3つの問題により、大幅に増加しました。そこで、A社はこれら3つの問題点の解決に取り組み、在庫適正化、さらにはコスト削減を目指しました。

在庫を適正化する3ステップ

A社の抱える3つの問題に対し、セイノー情報サービスでは、これらを1つずつ解決する提案を行い、解決策を導入しました。

在庫基準の設定による属人化の排除

1,000品目以上の商品の需要動向を分析し、発注するための仕組みとして、在庫適正化ツール(SLASHを導入しました。その結果、物流センターにおける在庫金額を約20%削減することができました。これは、日々変動する需要の動向に対して、SLASHを用いて分析し、発注点を適切に見直すことができたためです。また、発注業務は、特定の担当者に依存していましたが、複数のメンバーで共有することができるようになりました。

業務ルールの確立によるコミュニケーション改善

営業員は、電話やメールによって、物流センターの担当者に直接商談内容を伝え、在庫の確保を指示していました。営業部門と物流センターの担当者の間には、この商談内容が、営業の見込み情報、商談過程の情報、あるいは受注済の情報なのか、その取り扱いルールがなかったため、情報管理の徹底を進めました。

営業部門では、所定の用紙への記入と営業所長の承認を義務付けました。一方、物流センターでは、物流部門マネージャーの承認を得た後に、担当者に渡すルールにしました。更に、販売見込み情報をSLASHに登録し、物流センターの発注担当者が在庫を確認できる仕組みにしました。このように、発注時に販売見込み情報を把握できるようになったことで、得意先への出荷に合わせた在庫の手配が可能となりました。

物流センターと工場間にある不整合の解消

物流センターと工場間をリアルタイムに連携するため、物流センターからの発注とその結果としての生産計画が一目でわかる生産計画・実績管理システム(SPENCERを全3工場に導入しました。また、この仕組みを的確に運用するために、物流センターと工場の間での発注リードタイム、ロットサイズおよび締め日などの条件を明確化しました。これにより、双方の食違いを防止するとともに、担当者が数字への責任感を持つようになりました。

在庫を適正化する3ステップ

物流センターと工場の在庫全体を10%削減する

これらの活動により、物流センターと工場の在庫金額全体の約10%を削減することができました。更に、原材料の発注にもSPENCERを適用することで、原材料在庫も削減しています。

在庫は利益を生み出しますが、残ってしまっては利益を圧迫します。需要量を正しく把握し生産する。単純なことですが、企業経営に大きな影響を与える活動ですので、みなさまもこれに向けた改善を続けていただきたいと思います。